■ 闇のもつ淫猥さ、猥雑さ、物語りの面白さ
空の色さえ陽気です。 時は楽しい五月です。
この本は「空の色さえ」他7編のあやかしの作品からなる短編集です。
この本に限らず、皆川さんの全作品にいえるのは、江戸末期から明治に続く闇の気配が色濃く、ここかしこにあらわれているということです。 それはおどろおどろしくもあり、淫猥でもあり、また矛盾するようですが、近未来的シュールリアリズムでさえあります。
前者は「谷崎潤一郎の刺青」の系譜であり後者は「川端康成の片腕」であるように思えます。
この2人の作家に共通するのは、大教養人ということです。
彼等はその教養の深さから明治大正の空気を構築し披露してくれました。
あるいはジンタの流れる雑多な町並みや見世物小屋、淫靡なものを偲ばせてくれました。
皆川博子さんはまさにそれらをうけついでいる人といえます。
当然、彼女の教養の深さは現代作家の中でも群をぬいているといえます。
7編に共とも、生きていくのにどうしようもない不幸を背負っている人間の生き様が、幻視・異界をあやなしながら、密度の濃い美しい文章で描き出されています。
それは旧い蔵の奥にしまってある淫靡な錦絵や、またあるものは地獄絵のようひっそりとしかしめらめらと赤い炎ふきながら存在するようです。
圧倒的な力ある作家、それが皆川博子さんといえます。
その系譜にあるのが
川上弘美
さんではないでしょうか。
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